Dear.すずめサマ



「痛っ」

ああ、どうしてカッターより包丁より、こんな紙で切る怪我の方が痛いんだろう。

プク、と指先に浮かぶ赤い球を見ながら、ぼんやりとそんな事を考える。


「指、切ったの?」

「あ、はい」


でも大丈夫ですよほっとけば治ります、とヘラリと笑うと途端眉間に深い皺が寄る。


「何を言ってるんだい?」


放っておいて化膿でもしたらどうするんだい、と心配されて、少し笑ってしまう。


「やだなぁ先輩、心配症なんですね意外と」


アハハハハ、と笑いながら、怪我をしていない方の手で引き出しを探り、絆創膏を取り出す。


「まぁ貼っておけば何とかな」


ります、と続くはずだった口はそのまま固まる。

そして。



「ひゃぁぁぁぁ!」


一拍を置いた後、何とも情けない声がその口から洩れた。


「化膿ふるといけにゃひから」

「あっ、あのセンパ、先輩っ!!」

「ふ?にゃんだひ?」

「っあ……」


傷口を開く様に舐められ、その場所から背筋に向かってゾワリと何かが走り抜ける。


「あっあの、ホント大丈夫ですっ、から!」


だから放して、と願ってみたのだが、その願いは頭から却下され、

自分の指は面白いように蹂躙されていく。

傷口、指の腹、指先。執拗な程に爪の先をなめられたと思ったら、今度は指の付け根。


「先輩っ」


放してっ、と半ば小さな悲鳴の様な声が漏れると、やっと指が解放された。


「あ……」


つ、と抜けた自分の指先と、先ほどまでそれを含んでいた唇の間に銀色の橋が掛かって、すぐに壊れる。


「はい、多分これで大丈夫だから」


ジンジンと痺れるのは、痛みのせいか、それとも別の理由かは分からないが。


「絆創膏、もう貼って良いよ」


傷、悪化させないでね?と念押しされるかの様に言われ、何も考えずにその指に絆創膏を貼り付ける。




(何っ、考えたんだ。オレ)




じゃ、頑張って。と立ち去る先輩の顔が、まともに見れなかった。




(何で、こんなドキドキしてんだ)




そして、一体何を考えた。

あの人に、もっと舐めて欲しかった、なんて。

違う違う、と頭を振りながら自分の考えを否定する。

そうして、ぐしゃ、と握りしめた拳の中で、絆創膏のカスが、クシャリ、と音を立てて丸められ、

そのままそれはゴミ箱の中へと吸い込まれるように捨てられた。