見つけたのは偶然。

 

たくさんいる衛星達の世話も終わり、

仕事もそうそうに片付けて、のんびりと過ごそうとしていた午後。

 

読み掛けていた本も全部読み終わってしまい、

する事も無くてあまりにも暇を持て余していたので、

愛しい恋人の家にでも突然押し掛けてみるかと外へ出た矢先だった。

 

 

 

 

ロイヤルミルクティー (with a silvervine)

presented by ピロ子様

 

 

 

 

玄関を出て、ふと目先の道端を見やると、

見慣れた水色がうずくまっているのが見えた。

 

頭を抱える様にして丸まっているのは、

今まさに木星が会いにいこうとしていた地球。

体調がすこぶる健康とは言い切れない彼が、

「う゛ー、う゛ー」と唸りながらうずくまっているとなれば、

知り合い達は皆また彼の具合が悪くなったのだろうかと心配するであろう。

 

掻く言う木星も恋人が苦しんでいるのを見かねて、

慌てて地球の側へ駆け寄り、沈んだ背中に手を伸ばし声をかけた。

 

 

「・・・地球?どうしたの、大丈夫?」

 

「ッ!!」

 

 

すると地球は一瞬ビクッと震え、おそるおそる顔を上げる。

 

 

「も・・・木星?!」

 

 

そう震える声で呟いた地球の瞳はうっる〜と潤み、

眉はいかにも困ってますと言わんばかりに下がっている。

 

そして抱える頭の上で隠す様に握られているのは、ふわふわの猫耳。

 

 

「・・・。」

 

 

木星は思わず伸ばした手を止めてしまった。

 

見慣れた地球の水色の頭の上には、

見慣れないミルク色と淡い灰色がマーブル状に混ざった猫耳が生えていたのだ。

 

地球はかぁーと顔を紅く染め、よっぽど恥ずかしかったようで勢い良く立ち上がり、

「見られたぁーー!!!」と叫んでこの場から逃げようとする。

 

その元気の良さからいって、どうやら心配無用で、

別に体調が悪くてうずくまっていた訳ではないようである。

 

むしろ何だか楽しい事になっていた。

 

木星は素早く逃げる地球の腕を掴み、地球の行く手を阻んで、ニコリと綺麗に笑う。

 

 

「何処行くの?・・・せっかくだし、家にあがってかない?」

 

「うっ・・・で、でも・・・。」

 

 

意外に力強い木星の手は、がっちりと地球を掴んで離れない。

 

地球の気持ちを表すみたいに、へにょっと猫耳が下に垂れる。

 

 

「俺の他にも見られちゃうかもよ?・・・それ。」

 

 

俯く地球の顔を覗き込むようにして木星が微笑むと、

地球は少し考えてるように唸ってから、小さくコクンとうなずいた。

 

 

 

ソファの上で、木星が淹れた紅茶を飲んでいる地球を改めてまじまじと観察する。

 

たまにぴくぴくと動く猫耳は本物のようで、

偽物の猫耳バンドを付けている訳でも、付けさせられている訳でもないようだ。

 

 

「あちっ。・・・木星、この紅茶すげー熱いぞ。」

 

「そう?普通だよ?・・・地球、猫舌だったっけ?」

 

「・・・違う。・・・くそー、舌もかよ・・・。」

 

 

軽く舌をヤケドしたのか、赤い舌先を少しだけ出して冷ますように動かす。

 

地球の言葉から察するに、

猫耳が生えただけでなく舌も猫化してしまったという事だろう。

 

しかしそんな事より、

その舌の動きがまるでキスを誘ってるようにしか見えない。

 

 

「で、『これ』どうしたの?」

 

 

今まで地球の横に立っていた木星が、

地球の隣に腰掛けて、ふわふわの毛並みの猫耳を触る。

 

地球はくすぐったがりながらも木星の好きなようにさせ、

気持ち良さそうに目を細めた。

 

先程動揺しまくっていた地球も、少しは落ち着いたようで、

上目遣いに「笑うなよ」と木星に釘を刺してからポツリポツリと話し出す。

 

 

「・・・俺、今日ヒマでさ。・・・木星もヒマかなぁと思って木星の家に向かってたわけ。

そしたら、俺んとこの仔にゃんこどもが「最近かまってくれない」とか何とかニャーニャー騒ぎ出して、

いきなり小爆発音とともに水蒸気に囲まれたと思ったら・・・」

 

「・・・こうなってたってわけ、か。」

 

「・・・そう。」

 

 

何というか、何とも地球らしいと木星はクスクス笑ってしまった。

 

本来ご主人である惑星に忠実に仕えるべき化身動物にでさえも、

地球は舐められっぱなしのようだ。

 

もっとも、それは愛される故の事だが。

 

愛しさ余り、彼をいじめてしまう彼らの気持ちも解らないでもない。

 

声を押し切れずに笑う木星に、

地球は「笑うなっつったのに」と拗ねて離れてしまった。

 

知らぬは本人だけの地球は、一人いじけて紅茶を啜る。

 

 

「ごめんごめん。でも・・・という事は、つまりその猫達が満足するまで、

きみはずっとその状態のままって事だね・・・。」

 

「えっ・・・。」

 

 

そんな地球にやはり苦笑しながら、

木星は組んでいた脚の上に肘をつき顎を乗せて呟いた。

 

 

「だってそうでしょ?きみんとこの猫達は、

きみがかまってくれないからこんな事をしてるんだし。

満足するまでそのままだと俺は思うなぁ。」

 

 

そんな事考えていなかった地球は「ゲッ!」と言おうとして、

飲んだ紅茶を変な所の気管に詰まらせてしまいゴホゴホと咳き込む。

 

猫耳はいっそうピンッと立って少々毛が逆立ち、

咳き込んだ息苦しさからか、またもや瞳に涙が滲んでいる。

 

 

「ケホッ、ゴホッ・・・そ、そっか・・・。

俺、こんな事になっちまったショックで、そんな事まで考えてなかった・・・。

・・・う゛ー・・・ど、どーしよー・・・。

こいつら、どうすりゃ満足すんだ?・・・おい、ちょっと待て・・・。

このままずっと、こいつらの気が治まらなかったら・・・

俺、一生このままか?・・・いやいやいや、一生って事はないだろ。

でも、もしずっとこんな格好のままだったりしたら・・・

俺はいい笑い者じゃねぇか・・・。」

 

 

悶々と独り言を呟く地球を、木星はじっくり楽しく見つめる。

 

 

「いいじゃん。それ中々似合ってるよ、地球。」

 

 

お世辞でもなく、口から出任せでもない。

 

本当に似合ってると思うからそう言ったのに、

地球はキッと目を吊り上げて猫の様にフーッと怒った。

 

 

「男が似合ってたまるかよっ!!・・・でも、ほんとどうしよう・・・。

月に頼むのも何か気が引けるし・・・。」

 

「逆に、もっと楽しんで喜びそうだよね。」

 

「サティ・・・あいつはぜってー、写真撮りそうだし。」

 

「撮るね、確実にいいアングルで。しかもそれをばら撒くね。」

 

「・・・それに、もし・・・金星と水星とかに会っちゃったりしたら・・・

何されるか分からねぇよ!!!」

 

「まぁ、まずはグランドクロス発生かってぐらい

大爆笑される事には間違いないね。」

 

「・・・・・・木星、楽しんでねぇ?」

 

「ふふふっ。」

 

 

じとっと眼は木星を睨んでいるが、心底困り果てた様子の地球は、

また先程保護したばかりのように泣きそうになっている。

 

もちろん、猫耳はもうこれ以上下がりませんというほどペタンと垂れ、

水色の髪の毛に埋まってしまっている。

 

木星はニコニコと目を細めていた表情を崩し、

わざと残念そうに寂しげな顔をして問う。

 

 

「似合ってるからそのままでも良いのに。・・・そんなに元に戻りたい?」

 

「うっ・・・そんな顔されても・・・俺はこんな格好ごめんだっ!」

 

「・・・そう。・・・まぁ、元に戻る方法が無いわけでもないけど・・・。知りたい?」

 

「まじか?!教えてくれ!!!頼む!!!」

 

 

勢いのあまり地球がソファの上で四つん這いになって木星ににじり寄ると、

木星は急にコロリと表情を変えて物凄く鬼畜に笑った。

 

 

「じゃ、それなりに覚悟してね。」

 

 

地球はとても嫌な予感がしたが、時すでに遅し。

 

刹那に変わったその場の雰囲気についていけずに、

地球は硬直したまま動けなくなる。

 

そんな地球の顎を人差し指で持ち上げると、

木星はゆっくりと地球の口唇を奪った。

 

 

「んんっ・・・ふ・・・ん、ん。」

 

 

薄い唇の感触を何度となく味わってから、

ペロリとなぞって地球自ら口を開くよう促す。

 

調教済みのそこは、素直にそろそろと侵入を許し、

木星はそれを褒めるようにして褒美を与える。

 

上顎の部分を舌先で擽るように舐めれば、

地球は舌を木星に捧げて木星は其れを丁寧に絡めて愛撫した。

 

いつもよりこころなしか薄くざらざらとする地球の舌は、

本当に耳だけでなく舌も猫化しているらしい。

 

存分にそこを攻め立ててから満足気に離れると、

地球と木星を繋ぐ名残りの糸が出来たので、

それを見せびらかす様に自らの舌で絡め取った。

 

既にうっとりメロメロしている地球は、

赤く火照った顔をして不足になった酸素を懸命に補おうと息を整えている。

 

木星は顎を支えていた指で、今度は猫を愛でるみたいにそこを撫で始める。

 

地球はビクンと魚が跳ねるように身体全体を震わせ、反応を示した。

 

首筋は地球が弱い部分の一部だが、

いつも以上に気持ち良さそうにハニャハニャと声を漏らす。

 

 

「お・・・おい、木星・・・。

んっ・・・こ、これと元に戻る方法・・・か、関係ある・・・のか?」

 

「あるよ。・・・ほら、コレ付けて。俺のことは『ご主人様』って言うんだよ。」

 

「はぁ?『ご主人様』ぁ??」

 

 

何処に隠し持っていたのか、ふるふると快感に身悶えている地球の目の前に、

木星は突然赤く細い革に小さな鈴の付いた首輪を取り出した。

 

そして、それを勝手に地球の首に取り付けて、

鈴の音を確かめるため指でそっと鈴に触れる。

 

チリンと小さな涼しい音を聞いた木星は、にこっと地球に笑いかけた。

 

 

「そう『ご主人様』。ご主人様の命令は絶対だからちゃんと言う事聞くんだよ、地球。」

 

「えっ・・・う、うん・・・。」

 

 

快感のせいか性格ゆえか、従順に木星の言う事を信じる地球。

 

 

「ふふっ。じゃあまずは、俺の上にまたがって抱きついてみてくれる?」

 

「?・・・おう・・・。」

 

 

そんな事で猫達が本当に満足するのか疑問いっぱいだったが、

地球はそれでも木星の言う事に従って木星の脚を跨ぐと、ギュッと木星に抱きついてみる。

 

すると木星は、地球のうなじから尾てい骨にかけて、

背骨をなぞる様に手の平全体で撫で下ろした。

 

 

「ふぁ、・・・ん・・・。」

 

 

それだけで何故か物凄く腰にきた地球は思わず声をあげ、

さらに強く木星にくっつき、木星の肩に顔を埋める。

 

その際ふわふわの猫耳が木星の頬を擽ったので、

木星は薄桃色に色づく耳の内側に息をフッと吹き込んだ。

 

 

「ひゃッ!」

 

 

ぴょこぴょこと反応を示すのが楽しい。

 

 

「あれ?」

 

 

地球の頬を啄ばみながら、木星が地球の服の隙間から指を侵入させていると

何か尾てい骨辺りに違和感を感じる。

 

地球のズボンをぐいっと下ろすと、猫耳と同じ模様の長い尻尾が姿を見せた。

 

 

「尻尾も生えてたのか。」

 

 

地球は内腿も性感帯なので、さぞかしくすぐったかっただろう。

 

一定のリズムでぱたぱたと動く尻尾を捕まえて、

猫耳同様にふわふわ毛並みの良いそれもキュッと握って愛撫した。

 

 

「んん〜!?・・・っ・・・やぁっ。」

 

 

他の場所を攻めていた時よりも、少しだけかん高い声を地球が溢す。

 

どうやら此処が一番のウィークポイントのようだ。

 

急に沸き起こった強烈な快感に不安がる地球を、

木星は優しくねっとり濃いキスであやした。

 

 

「ん・・・っふ・・・な、なぁ・・・も、木星・・・木星?」

 

「・・・『ご主人様』」

 

「ごっ、ご・・・主人、様・・・。」

 

「何?」

 

「これって何か、・・・やっぱ違う様な気がすんだけど・・・。」

 

「・・・まぁ、もう少し我慢してよ。もうちょっとで終わるから。」

 

 

そう言って木星は地球の目尻に溜まる涙をチュッと吸い取り、

一度キュッと地球を抱き締める。

 

それから一気に猫耳に息を吹きかけ、腰を丹念に撫で、尻尾を愛撫し、

ついでに脚で地球の股下を擦り上げた。

 

 

「あ・・・つ・・・ぁ!」

 

 

地球が仰け反って声を上げたと同時に、

ボンッと小さな爆発音がして、辺りは真っ白な水蒸気に囲まれる。

 

煙のようなそれが消えてから抱きしめたままの地球を見れば、

猫耳も尻尾も完璧に跡形もなく無くなっていた。

 

そして代わりに現れたミルク色と灰色の2匹の仔猫。

 

 

「うおっ!やった。元に戻った〜!!!」

 

 

木星の上で無くなった猫耳を確かめながらはしゃぐ地球の肩に顎を乗せ、

木星は不適に2匹を挑発するように微笑む。

 

すると猫達は毛を逆立てて木星を威嚇した。

 

大方、大好きなご主人にあんな事をした木星の事が気にくわないのだろう。

 

でもそれも自業自得。

 

それにいくらニャーニャー騒がれても所詮は仔猫。2匹いたとしても恐さ半減だ。

 

 

「サンキューなぁ、木星!・・・て、おっ。シロ、グレーお前らなぁー・・・。」

 

 

今更ながら仔猫達の存在に気がついた地球が

振り向いて猫達を叱ろうとする言葉を木星が遮る。

 

 

「此れに懲りたら、二度とあんな悪戯しない方がいいね。

仮にも君達は地球の化身動物でしょ?」

 

 

そう木星が嗜むと、仔猫達も渋々反省したようで騒ぐのを止め、

ボンッという音と共に水蒸気となってこの場から去っていった。

 

木星は役目を一仕事終えて、フーッと深呼吸する。

 

地球の首筋に擦り寄って水色の柔らかい髪に鼻を埋める。

 

そして地球に完璧な笑顔を見せて、

そのまま地球を抱き直しソファから立ち上がった。

 

地球の首輪の鈴がチリンと鳴る。

 

 

「じゃあ、寝室で続きをしよう。」

 

「あ゛?『じゃあ』の意味が分かんないんですけど・・・。あのー、木星?」

 

「『ご主人様』ね。・・・

ペットの躾と元の姿に戻してあげたお礼をして貰わなきゃ。身体で。」

 

「え・・・まだその設定続いてたの?・・・お、降ろせ。」

 

「でももう寝室着いちゃったし。

それに、さっきので大分煽られたままでしょ?君も・・・俺も。」

 

「・・・うっ・・・。」

 

 

ベットに沈めた地球を上から鬼畜な笑みを浮かべて見つめる。

 

困ったように目を泳がせる地球が、

覚悟を決めておずおずと木星の背中に手を廻したのを合図に、

木星は静かに地球の睫毛にキスを落とした。

 

 

そうして、水色の猫は木星という名のまたたびに酔いしれて、

しっかりがっつり美味しく食されました。

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

おまけ?

 

 

「ただいま〜・・・。」

 

「おかえりなさい、アース。」

 

「・・・あ゛ー・・・だり〜・・・。」

 

「?・・・おや、アース。その赤い首輪は何ですか?」

 

「ゲッ!?忘れてたッ!!・・・な、何でもねぇよ!!!」

 

fin.