presented by 玖雅 葵様
ねぇ神様。
この世界を創造し、全てを統べる偉大なる神様。
もしも本当にこの世にあるなら、どうかいま少しだけ俺に時間を下さい。
俺のこの体の全ての機能が止まるまで、もう少しだけ時間を下さい。
束の間の愛と平和を下さい。
俺なんかを愛して暮れた沢山の仲間達にお別れを言いたいんです。
俺の傍で、ずっと俺の世話をしてくれたサティにお礼が云いたいんです。
それから
俺を愛してくれた、
抱きしめてキスをして、笑いながら『好きだよ』と囁いてくれたあの人に。
俺の一番大好きな木星に、『ありがとう』と『さよなら』を云いたいんです。
この体の熱は日々上がり、体の節々を襲う激痛に、
俺はもう長くないんだと悟りました。
知らなかった頃に恐怖は既になく。
ああもうお別れなのだと、涙も恐怖もなく漠然と感じるほどに
精神は疲弊していたけれど。それでも死ぬのは怖いです。
でも死ぬ運命は、多分変えられなくて。
だから、時間を僕に下さい。
***
『何を読んでいるの?地球』
唐突に聞こえた声は、地球の存在価値の全てを占める人、愛しい恋人の声だった。
背後から優しく抱きしめ、囁きながら耳元にキスを送る恋人の木星は、
まるで本に嫉妬したというように地球の手から本を奪い取って遠くへほおリ投げ、
そのまま地球の体を抱きかかえる。
『木星・・・・』
普段は大人びた(否実際に大人なのだが)木星のその子供じみた行動に、
地球は呆れる反面愛されているんだと嬉しく思った。
優しくて意地悪な恋人が、ふとした瞬間子供くさくなるのは
自分の前だけだというその事実を嬉しく思う。
『地球?何笑ってるの?』
『え?あぁ・・・木星がこんなガキみたいな行動をするのは
俺の前だけだと思ったら嬉しくて・・・・』
本当に嬉しそうに微笑む地球の綺麗な横顔に、木星はふとした違和感を感じた。
普段だったらこんな事は言わないのに。
そう思うけれど、結局は可愛い恋人にこんな風に嬉しそうに
可愛らしい愛の告白を囁かれるのは初めてな木星は、ふいに意地悪をしたくなった。
『ふ〜ん・・・。まぁ地球の最高にエロくて淫らな姿を見れるのも俺だけだから、
これでおあいこだけどね。』
腰に手を回し、低い声で囁くと案の定地球は真っ赤な顔をして木星をにらんだ。
けれど抱きしめられれいるので自然と上目遣いになっているため、
地球の精一杯の睨みも木星には効かない。
『それで?何の本を読んでたの?地球。僕をほったらかしにして熱中するほどに』
『別に木星が気にするほどの高尚な本じゃないよ。・・・ありふれたロマンス小説』
『ふぅん・・・・君がそんな本を読むなって初めて知ったよ』
『俺も初めて知った』
抱き合いながら他愛もない話しをしているだけなのに、地球には大切な時間だった。
『それで君はその本を読みながら、何を考えたの?』
『え?・・・・・あの・・・・・その・・・ずっと・・・・・
一緒・・にいられたらいいなって・・・・』
しどろもどろつっかえながらも一生懸命何かを伝えようとしているのだが、
恥ずかしさからか語尾は小さくて聞こえにくかった。
それでも木星にはしっかりと聞こえたようで。
恥ずかしいのを我慢しての精一杯の愛の告白をした地球への愛しさが爆発したように
体中を駆け巡り、木星は考えるよりも先に行動に出た。
『我慢の・・・限界』
小さく何かを呟いた木星に、何の事だと怪訝そうな顔をした地球は、
上を向いた瞬間自分の大好きな木星の顔が近付いてくるのが見えた。
その行為の意味を悟った瞬間に、ビクリと震える肩をかき抱いて、木星は。
噛みつくように
キス
をした。
最初は唇をくっつけるだけの軽きキス。
そのうち息が続かなくなった地球が、酸素を求めて口を開いた。
それを見計らって木星は地球の口内を存分に堪能する。
『ッ・・・・・・・プハッ・・・・ハァッハァ・・・・』
『そんなに可愛い顔をしても駄目だよ。もう我慢の限界』
そういって地球を抱き上げ、お姫様抱っこで寝室へと運ぶ木星。
そんな木星の首筋に抱きつきながら、地球はぐったりとしていた。
何度もしているその行為に、地球は未だに慣れることが出来なかったから・・・・・
甘くて熱い情事の後、木星は地球の頬に優しくキスをして
キッチンにコーヒーを入れに行った。
その様子を見ながら、地球は恥ずかしさと罪悪感で涙を流す。
周りからは何の音も聞こえてこない。
聞こえるのは自分の心臓の音だけ。
そこは、自分と木星をつなぐ、唯一の場所で。
二人だけのエデン。
隔離された、最後のエデンだった。
さしずめ自分達は、そのエデンのアダムとイブか。
柄じゃないと思いつつも、
それでもその響きを心地よく感じる自分がいるのもまた事実で。
だから自分は、そのエデンにいるのだと、
逃げる事もせず、壊れゆくエデンの中で
自分の市を待っているのだと、改めて実感した。
けれどもそれを誰かにいうつもりなんて微塵もない。
これは自分のエゴ。
同情なんてほしくないから、ほしいのは木星からの愛だけだからと
自分を慰め皆を欺く醜いエゴ。
それでもいいから一緒にいたい。
それが唯一最後の願いなんです。
ねぇ神様。
この世界を創造し、全てを統べる偉大なる神様。
もしも本当にこの世にあるなら、どうかいま少しだけ俺に時間を下さい。
俺のこの体の全ての機能が止まるまで、もう少しだけ時間を下さい。
束の間の愛と平和を下さい。
俺なんかを愛して暮れた沢山の仲間達にお別れを言いたいんです。
俺の傍で、ずっと俺の世話をしてくれたサティにお礼が云いたいんです。
それから
俺を愛してくれた、
抱きしめてキスをして、笑いながら『好きだよ』と囁いてくれたあの人に。
俺の一番大好きな木星に、『ありがとう』と『さよなら』を云いたいんです。
この体の熱は日々上がり、体の節々を襲う激痛に、
俺はもう長くないんだと悟りました。
知らなかった頃に恐怖は既になく。
ああもうお別れなのだと、
涙も恐怖もなく漠然と感じるほどに精神は疲弊していたけれど。
それでも死ぬのは怖いです。
でも死ぬ運命は、多分変えられなくて。
だから、時間を僕に下さい。
最後の時を迎える、その日まで――――――――――